楽炎の泉

不要不急の外出自粛が要請される前、
更にはコロナの影響で人々が郊外のキャンプ場へ足を向けるよりも前、
技術者は都会から離れ自然と時間を共にすることを選択していた。

夜になると冬の冷たさが全身を覆うが、寒くは感じていなかった。
その訳は明白だった。

 

 nakadate3

 

焚火から跳びあがってくる光の噴水を全身に浴びながら、

最後の薪のわずかな瞬間を惜しんで椅子に座っていた。

その光は彼自身の長い長い影を、地をつたい背後のテントに沿って真っすぐ上へ、
遠くの星の彼方へ投げかけていた。
その長さは何千キロにも及ぶだろう。

薪の燃える音も川のせせらぎも激しくも穏やかだ。
あわただしくあっという間の時間に真摯に向き合った者だけが
普段よりずっと長い時の流れを感じ、特別な印象の奔流を味わえるのかもしれない。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次